2013年02月12日

どこから行っても遠い街

川上弘美 著   どこから行っても遠い街

慎ましやかでちょっと哀しい、市井の人々の暮らしを一見淡々と
綴ってゆく連作短編集。

カドリールのように、人々は出会い、つかの間一緒に「人生」という
ダンスを踊り、離れ、そこに別の人がやってきてまたちょっと関わり…
入れ替わり立ち代り、クルクル回りながらダンスは続く。

と言った風情の本。

ぼーっと読んでいると、うっかり見落としそうな「あの人」が
実は別のお話の「あの人」だったんだ〜(驚)なんていうこと連発。

しかも、よくよく考えると結構怖いエピソードも。

お話ひとつひとつは、哀しくて怖くてユーモラスでもあり
結構引き込まれるように読んでしまうんだけど、読み終わってみると
そのあまりの透明さに、全体像はぼんやりとして目を凝らすほど
輪郭が曖昧になっていくような。

読後、一番印象に残ったのは、お魚屋さんの若妻が大きな青魚を
さばくときの擬音だったりする。

「ぶぶぶ」

魚の丸々太った腹に包丁を入れて開いて行くときの音。

ものすごくリアル。
パンパンに張った銀色の魚(ブリとか鯖とかの)のお腹が、
包丁を入れるやいなや、弾けるように裂けて、原色の内蔵が飛び出してくる様が、
3Dのように立ち上がってきた。
新鮮な生臭さがあたりにたちこめ、冷たい指先の感触まで感じられるほどだった。

たった一つの文字をみっつ重ねるだけで、ここまで追体験させられる、
小説というのは本当にすごいメディアだと思った。

いや、川上さんがすごいのか。

心が弱って物悲しい時にも、無性に昂ぶって落ち着かない時にも
おすすめの一冊だと思う。


「ぶぶぶ」




posted by ねこてん at 18:26 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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