2013年03月05日

蒼き狼の血脈

小前 亮 著    蒼き狼の血脈

モンゴルの草原を吹き渡る風の匂いがする物語。

ねこてんは、この著者の作品を読むのは初めてで、
寡聞にしてお名前も知らなかったので、調べてみると、
東大の大学院で中央アジア・イスラーム史を専攻された
学者さんだった。

大昔、井上靖さんの「蒼き狼」を読んだことがある。
あまりに昔で、内容は明確に覚えていないが、
モンゴルの人々が、「蒼き狼」と「生白き牝鹿」の
子孫だと信じているというような話があって、
非常に印象的だった。

テムジン(チンギス・ハーン)は自分を蒼き狼になぞらえ、
妻を生白き牝鹿になぞらえていたような気がするが、
定かではない…妄想かしらん。

まあ、とにかく、そのモンゴルの始祖たる「蒼き狼」の
血がチンギス・ハーンから、その孫のバトゥに、そして
これは、本書には書かれていないが、その後もモンゴルに脈々と
流れていくのであった…という壮大な物語。

主人公のバトゥは、チンギス・ハーンの長男ジョチの息子だが、
ジョチの出生に疑惑があったため、ジョチ家自体が、跡目相続の
対象外みたいな扱いを受けている。

父ジョチが不遇のまま最期を遂げ、バトゥはモンゴルの王「カーン」の
位に付くことは求めず、ひたすら西方に領土を拡大することに情熱を燃やす。

色々ゴチャゴチャと陰謀渦巻くモンゴル本体から遠く離れ、
ひたすら目の前の敵を打ち崩して行くうちに、ついに東欧にまで
その勢力は拡大し、無敗の将はサイン・カン(賢明なる王)
と呼ばれるようになる。

その間のことが、ドロドロせずに結構淡々と書かれているので、
最初のうちはキャラが立ってこず、何度も巻頭に付いている系図を
見直して、人間関係の把握に努めなければならなかったが、
序盤を過ぎると、俄然面白くなってページを繰る手が止まらなくなった。

さすがは学者さんが専門分野を書いた本だけあって、
その時代のモンゴルの風習や、役職や、家柄の描写がとても興味深かった。

人間関係は必要最低限のところで敢えて止めているのかと思わせるような
サラリとした記述なので、これを物足りないと思うかどうかは
好みが分かれるかもしれない。

ねこてんは、とても好ましく感じた。

他の作家に散見する、意図的に登場人物に、妙にエキセントリックだったり、
利己的だったり、甘ったれていたりするしつこい味付けをしているという
ことがなく、史実という素描の上に、水彩がサラッと塗られているような作風で
素直に読み進められた。

だからと言って、人物描写が足りないわけではなく、魅力的な脇役が
たくさん出てきて、その人々がバトゥに及ぼす影響も面白かった。

冒頭に書いたように、モンゴルの草原を吹き渡る風の匂いがする。

その風は時に羊や馬の乳の甘い香りがしただろう。
また、ある時には、今流されたばかりの生々しい血の臭いがしたに違いない。
腐りかけた屍肉の臭い、略奪され燃やされた家の臭いも。

そういう風が足元の草を渡り、あるいは、積もった雪を捲き上げる中、
独りで大平原に立ち尽くしているような読後感の本。

モンゴル、蒼き狼、馬乳酒などの単語に胸がときめく方にはおすすめ(。-_-。)





posted by ねこてん at 18:15 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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